モーターサイクル

 朝10時くらいに出発してずーっと2号線から1号線にのって、大阪、京都、滋賀、岐阜、愛知、静岡、神奈川と順番に走破していく。京都の交差点で、それがどういう具合に交差しているのかが見極められなくて1回死にそうになったけれど、概ね順調に進むことができた。
 途中、浜松で1泊しようかと思ったけれど(げんにバイクを置いて駅前をぷらぷら歩いて回った)、浜松ガールズのスカートの短さに感動して、おれも頑張らなきゃなとやる気を奮い立たせ、休憩せずに東京に向かう決心して午後9時、再びバイクにまたがった。
 深夜0時頃、箱根の山越えをしている最中、まったく対向車とすれ違わなかったので、これは道に迷ったのだおれはもう駄目かも知れないと少し思ったけれど、山頂辺りで今走っている道が国道1号線だと示す標識があったので、泣きそうだったけれど自棄的にならずにすんだ。小田原を越えた辺りで雨が降り出した。もうすぐ横浜も目の前というところで、高速のバイパスのようなものが1号線と合流するように設けてあったので、1号線を外れたら即孤児になるので、とりあえず乗る。
 雨が強くなってきて、前がほとんど見えなくなった。そろそろ横浜は越えたくらいだなと思い走行中確認しようと標示板を見上げる。緑の標示板があるのは分かるのだけれど、雨で文字が判然としない。側道に止まってから確認しようと左側に寄る。ちょうど止まりきるくらいに強い震動があってバイクごと前のめりになる。側道の溝に前輪がはまる。降りて持ち上げてみる。微動だにせず。雨が降る。
 エンジンの力で何とかならないだろうか、と思いエンジンを始動してローギアで発進しようとする。後輪もはまる。進退極まる。試行錯誤、手練手管を尽くすが、どうしようもないので、午前2時、1kmごとに配置されている例の電話機から道路公団様に電話をかける。警察と道路公団に2回同じことを説明してからバイクの横でうつむいて待機する。
 30分後、例の黄色いお車にのって20代なかばくらいのお兄様が2人でいらっしゃる。状況を説明したり免許を見せたり、70ccのくせになんでこんなとこ走ってんだよホントに免許持ってんの?という主旨ではなくこのままのお言葉で頂いたりする。レッカー呼ぶ?高いよ、と何度となく脅されたけれど、腰が地面にうまるほど低くお願いして3人でタイヤを持ってやっと後輪だけは救出させたけれど、前輪は無理だったので、例の黄色い車に牽引の要領でつないで引っ張ってもらう。フロントフォークがスゴイ負荷で軋みだしたとき、前輪も救出される。バイクは乗れる状態だったので(流石世界のカブだ)死ぬほど礼を申し上げて辞去する。
 雨に濡れたジーパンが重い。上着の袖のあいだから入ってくる風が上半身を責め立てて、半分ほど思い通りに動かなくなった。東京まであと20kmのところで、このまま走りつづけたら結構な確率で死ぬだろうなと思う。東京の家についたのが午前4時ごろで、雨に濡れすぎて両手の指がふやけていた。風呂で湯につかりながら今自分が生きていることを意識した。