高橋治 絢爛たる影絵

 ここ1ヵ月、集中的に小津安二郎に関する書籍を十数冊読み漁った上で面白かった・有意義な3冊。蓮實重彦『監督 小津安二郎』、貴田庄『小津安二郎のまなざし』、高橋治『絢爛たる影絵』。特に高橋のは自伝的な記述も多く、つい惹き込まれる。青年高橋はかなり過激で、苛立ちや不可解なことに対して言いたいことを気持ち良いくらい包み隠さない。平気で上に噛みつき唾を吐きつける。小津という権威が揺るがしがたく在るその中での自分の位置付けや将来の展望に悩み迷う様を卓越した文体であたかも小説かのようにスリリングに描く。また当時の所謂小津組の雰囲気のみならず、大船撮影所そのものの空気さえも味わうことができる。他に溝口に関する考察や、小津映画に関する明快かつ的確な批評、また著者自身の偉人たちとの体験の生々しい記述など、多様な読み方・楽しみ方ができる魅力的な名著。読了後、久しぶりに、こんな本に巡り合えて良かったと強く思えた印象的な一冊。